どんぐりと生ハム

 

生ハムの味はどんぐり(Acornエイコーン)を食べさせてそだてた豚から作ったのがおいしいという。実際Jamon Ibericoとよばれる高価な生ハムは、広い樫の森で自由にどんぐりを食べた黒豚の肉を使う。スペインが主だがポルトガルの一部でも生産される。しかし豚がどんぐりを好むということは広く知られているようで、アメリカでつくられる生ハムでもどんぐりで育てたというのが出回っている。

 

一口にどんぐりといっても、椎の実のようにぜんぜん渋みのないものもあるが、たいていはひどい渋みがある。Jamon Ibericoの豚にはもしや椎の実を食べさせているのかと思って調べたが、植物としては樫よりは栗の木に近い椎の木はイベリア半島にはないので、椎ではない。普通のどんぐりにも渋みの多いのと少ないものがある。White Oakといわれる樫の種類のどんぐりは渋みが少なく甘みもあるが、Red Oakといわれる樫のどんぐりは渋みが多い。イベリア半島の生ハム用のどんぐりはWhite Oakの実だという記事がある。渋みのおおいどんぐりは、豚がいったん口に入れてもすぐにだしてしまうという。

 

ついでながら、生ハムというのは豚肉の大きな塊に塩をまぶし、一年ないし二年天井からつるしておくと出来る。火は一度も使っていない。豚の生肉は絶対に食べてはならないといわれているのに、生ハムはなぜ安全なのだろうかという疑問が起こる。この答えを人から聞いたり読んだりしたことはないのだが、私の想像するところはこうである。生ハムは塩味が濃いばかりでなく酸味もあり、明らかに発酵食品の一種である。肉のたんぱく質はもとの生肉から相当変質している。ということは、もしもとの肉に微生物あるいは寄生虫がいたとしても、その蛋白質は変質するので、どんな微生物も寄生虫も生物として生きていられないであろう。だから生ハムは危険がないのであると考えている。

 

どんぐりは馬も好んで食べるようだが、人間もたべる。古来から人間の食料の役を果たしてきたし、近年は好んでどんぐりを食用に使う人が増えてきたようである。アメリカでもどんぐりをどのように食用にするかを詳しく説明しているウェブサイトがあるし、日本でもどんぐり粉やどんぐり麺、どんぐり菓子などが販売されている。古い話だが戦争直後配給のどんぐり粉で作ったパンを食べた経験がある。渋みがあり旨くなかった。今はもっと上手な渋抜きや料理法が開発されているだろう。どんぐり焼酎を造ると売れるかもしれない。

 

我が家の庭には樫の木はないが、近所には少なくない。秋の落ち葉集めでは、道を隔てた向かいの家の庭からやってきた樫の葉が多く混じっている。このあたりのどんぐりは栗鼠の餌になっている。庭の納屋にうっかり空き箱をいれておいたりすると、栗鼠がそこへどんぐりや黒胡桃の実をどっさりためるので、空き箱を置かないように注意している。春、花壇で樫の芽が出てきたりすることもしばしばある。栗鼠が埋めたに違いない。

 

中村省一郎     11−19−2014