ムーンシャイン祭、二度目の訪問

 

先日、5月の末に近い土曜日に、コロンバスから高速道路で約一時間南に向けて走ったところにあるStraitsvilleという小さな町でやっていたムーンシャイン祭りに行った。このあたりはオハイオ州の南端に近く、アパラチアン山脈の北端にあって、山間部であり農業には適しない。高速道路を出てからこの町までは、ぐねぐねした山道を速度を遅くして走らなければならない。この祭りに行くのは今度が2度目で、なぜまた今回出かけることになったかは、理由がある。

 

ムーンシャインとは隠れたところで月の光を頼りに酒を蒸留すると言う意味で、密造酒のこと。この町は炭鉱に近く、もともと炭鉱夫が多く住んでいた。しかし鉄鋼産業がつぶれ、また発電にも石炭は公害が多く使われなくなってきていて、多くの炭鉱夫は失業したが、その鉱夫たちを救ったのは密造であったのである。蒸留器を炭鉱に隠すことで、政府の役人の目を逃れることはたやすく、この町では一世紀にわたってムーンシャインをやっていたのである。ところが2013年に州の法律が変わり、微小酒造でも免許が簡単に取れるようになった。そこで、この町のムーンシャイン業者は早速免許を取り、その酒はムーンシャインという名をつけて表道で売り出したのである。

 

今回のムーンシャイン祭では、その酒造現場を公開するというので、本当の操業が見られるのならぜひ見たいと思い、出かけることにした。私の造酒工場見学は、ケンタッキイのバーボン工場二箇所、スコットランドのウイスキー工場、鹿児島の焼酎蔵2社、日本の秩父のウイスキー工場といった具合に、かなりの数がふえていて、ムーンシャインを本当に見られるのなら、またひとつ見学する造酒工場の数と、知識が増えるのが楽しい。

 

以前にこのムーンシャイン祭りに行ったときには、掘っ立小屋にあやしげなコンロ、ドラム缶のなかでとうもろこしを水に浸けたのが置いてあって、ムーンシャインの方法を説明していたが、信用できなかった。「本当にムーンシャインを飲みたいが」、と話しかけると、急に顔つきが変って、「そんなことが出来るかどうか知らん、もし知っていても、あんたが役人かもしれず、言わないと思うよ」、とそれ以上は言おうとしなかった。

 

今回は、蒸留器から蒸留酒が流れ出て来るところも見たし、製法も詳しく話してくれた。しかし、その製法というのはバーボンやスコッチと比べると一つ 欠けているのである。バーボンやスコッチでは必ず麦芽を用いていて、これが澱粉を糖化し、そのあとで加える酵母つまりイーストが糖をアルコールに変える。東洋の酒では麦芽のかわりに麹を用いる。とこらがここでは砕いた生のトウモロコシに水を加え、そこへいきなり酵母を入れるのである。ただし、砂糖を加えることが大事であると言った。酵母は、パン用に市販しているありきたりのイーストで、特別な酵母は使っていなかった。

 

なぜ麦芽を用いないでアルコール発酵が可能なのか理解できない。何度もその点を質したが間違いないという。どんな化学作用で麦芽なしに澱粉が糖化するのかも聞いてみたが、化学は全く分からぬという。

 

この製法は以前にムーンシャイン祭りに来て掘っ立て小屋で聞いた説明とまったく同じであった。ということは、嘘を言っているのではなく、ムーンシャインでは麦芽を使わずにアルコール発酵をやっているのであろう。麦芽のエンザイムに相当するものは、生のトウモロコシが持っているのかもしれない。後は実験してみるしかないので、割ったとうもろこしが入手出来次第やってみようと思う。

 

味見もさせてくれた。バーボンやスコッチとは味が異なり、自家製のムーンシャインの焼酎に似ていた。ここで見た小規模な装置なら、さほどの費用もかからず、免許を取って独特の焼酎を製造商売をすることは可能であると判断できた。しかしこの年で、焼酎製造は遅すぎる。

 

中村省一郎

6−3−2016