[書評]

中村省一郎著

『随筆集 コロンバスにて‐アメリカに長年在住する科学者の視点‐自然、学問・歴史、観光など』 (上巻、下巻)

 

武山高之(2017年8月記)

 

2002年から2017年の15年間に、同期会のウエブサイト「アイソマーズ通信」に著者自身が思いつくまま投稿した、時々の随筆を本にしたものです。したがって、内容は多様です。しかし、共通した特徴として、アメリカ在住の科学者の視点があります。

上巻7ページにありますように、この副題は私の提案を採用して頂いています。一読すると、中村さんの日常が見事にまとめられており、引き込まれてゆきます。以下、思いつくままに気が付いた点を紹介します。

 

    自己出版の本です

アイソマーズ通信2017年にある「随筆自己出版の薦め」に従って、自ら本にしたものです。アイソマーズ諸氏もパソコンの中に、原稿が入っていたら、本にしてみたらどうかという薦めです。驚くほど安価にできるとのことです。

私も、会社での新製品開発史・家族史・地域誌など、仮綴じにして関係者に配ったものがあり、本にしておきたいと思いますが、なかなか腰が上がりません。

自らさっさと本にしてしまった中村さんの実行力に脱帽です。

 

    歳をとっても、何でも自分一人で出きる人。しかも同期会や地域社会の役に立って

 アイソマーズの仲間は、当年とって81歳以上です。そろそろ新しい面倒なことをするのは避けたい年齢になっています。

ところが中村さんは15年間、同期会のウエブサイト「アイソマーズ通信」を主宰され、我々一同が受けている恩恵は計り知れないものがあります。それだけでも大変だと思っていましたら、最近コロンバスのアートセンターのウエブサイト編集も引き受けられ、アメリカ人からも感謝されているようです(下巻222ページ)。

 学生時代には京大オーケストラのファゴット奏者でしたが、今年の9月にはコロンバスで2度目のピアノリサイタルを計画しているそうです(下巻222ページ)。ただいま、全てを暗譜中とも聞いています。

 さらに、自宅で焼酎を作ったりしています(下巻104ページ)。

その上、立派な本の自己出版。すごいですね。

 

    アイソマーズ諸氏の中で只一人化学と縁を切った人

 アイソマーズ仲間たちは、大学で研究を続けた人、製造会社に就職した人、商社に勤めた人と様々ですが、いずれも化学を生活の糧にしてきました。

ところが、上巻2ページの中村さんの経歴をみると、日立製作所に就職した後、原子炉関係を担当、京大原子核工学科で博士号をとり、その後、オハイオ州立大学では、原子核工学科と機械工学科で教授を務めておられました。化学とは縁を切ったようです。

 

    原子核工学の専門家として

 20113月の福島原発の事故の際には、原子核工学の専門家としてのコメントを、我々門外漢に披露して頂きました(下巻第18章「原子力災害と事故)。この時初めて、中村さんの学問の深さを知りました。

201742日付の「アイソマーズ通信」には、東芝問題に関連して、ウエスティング原子力会社のコンサルタントとして、中性子拡散方程式という手法で、数値流体力学的支援をしたことが披露されています。

 

    学生に分かりやすい応用数学の教育が出来ているようです

 中村さんのアメリカでの仕事は、前項にある数値流体力学のような数学の応用に関するものと理解しました。

それに関係した記事が、上巻第5章「幾何と数学」および下巻第21章「著書の最近の文化活動」にあります。後者では、中村さんが書かれた「数学とコンピュータ・プログラミング」に関する3冊の本が紹介されています。

また、いずれも私の読後感が掲載されています。初学者用に分かりやすく書かれているように思いました。しかし、細かいところまで理解するには、私は歳を取り過ぎています。ただただ、80歳を過ぎて、こんな本を書く中村さんに驚いているばかりです。

 

    多趣味です。とくに動物記と植物記はアメリカならではの記載

 とにかく多趣味な人で、しかも凝り性です。学生時代から京大オーケストラの一員だった音楽は、別格です。音楽については、私は評論する能力がないので、ここでは上巻の第2章、第3章の動物記植物記を取り上げます。

 大都会のコロンバスで、中村さんは鹿もやって来る広い庭を持った邸宅に住んでおられるようです。

動物記には、そこに来る様々な哺乳類や鳥のことが書かれています。日本の小さな家に住む私は、せいぜいメジロやシジュウカラと仲良くしている程度です。さすがアメリカは違うという感じです。よく観察しているところには、科学者の目が感じられます。

植物記では、日本に対する郷愁が感じられます。私の貸農園よりはるかに種類の多い、日本の食材や樹木を楽しんでいるようです。

圧巻は、上巻158ページの「挿し木の試み」です。レンギョウの枝を上下逆さまにさしてみたくだりは、科学者を感じます。

 

    「竹島」についての私の記事に補強をしてくれました。竹島問題理解に最適

下巻211217ページに、「竹島」問題に関する私の記事に中村さんが補強をして、掲載して頂きました。この記事は「竹島」問題の歴史のもっとも客観的な記述だと思います。

 ただし、外交上の解決は、別問題です。

このようなアイソマーズの仲間同士のやり取りが記載されているのも、この本の特徴です。