甘納豆のレセピと半透膜の考察

 

限られた日本食品しか手に入らないコロンブスに住んでいる私にとって趣味でもあり課題であるのは、日本食の作り方に関する謎を解明してゆくことである。このような努力の結果、麹、味噌、焼酎が作れるようになったし、ゆべし、昆布巻、煮豆、カステラ、餅から作る揚げ煎餅など、多くの日本食がほぼ完ぺきにできる。しかし、日本菓子は不明なところが多く、まだまだ挑戦が必要だ。

 

正月に東京に住む娘のところから甘納豆を送ってくれた。しかし量には限りがあって、いつまでも有るわけにはいかない。そこで甘納豆を作ってみることにした。原理は簡単であって、要するに豆を煮て砂糖で甘くし、砂糖をまぶして乾燥させることである。

 

だが実際にやってみると、砂糖を入れて間もなくすると豆がコチコチに硬くなってしまいふんわりした甘納豆とは程遠い。煮豆のときより砂糖を多く入れるたためかもしれないが、なぜ豆が硬くなるのだろうか。インターネットにはレセピは多く見つかるが、何故かを書いた記事は全然見つからない。そこで、以下に書くような考察を行ってみた。

 

豆は皮を被っていて、中は種である。納豆つくりでは、その種を柔らかく煮て砂糖を浸みこませなければならない。また、皮は煮崩れがせぬように完全な形で煮なければならない。ということは、水も砂糖も皮を通過して種に入っていかなければならないのである。

 

そこで、皮の性質を考える際に、皮は半透膜として考えればよいのではないかと思いついた。では半透膜とは何であるか、ウィキペヂアで調べると、次のような情報がでてきた。

 

1.「半透膜(はんとうまく、semipermeable membrane)とは一定の大きさ以下の分子またはイオンのみを透過させるである。半透膜を透過しない溶質と透過性を示す溶媒の系で、半透膜を介して2つの濃度の溶液を接すると、隔てて浸透圧が発生し溶媒のみが透過する。この現象を浸透と呼ぶ。理想的な半透膜の場合、浸透圧は溶液のモル濃度に比例し、この原理を用いて高分子などの分子量を測定することが可能である。」

2.「実際に用いられる膜は、古典的にはフェロシアン化銅の沈殿膜、コロジオン膜、あるいは膀胱膜などが用いられたが、今日では再生セルロースセロファン)、アセチルセルロースポリアクリロニトリルテフロン,ポリエステル系ポリマーアロイあるいはポリスルホンの多孔質膜が用いられる。」

 3.「半透膜を介して物質が移動する場合、溶媒が移動する場合を浸透(しんとう、osmosis)と呼び、溶質が移動する場合を透析(とうせき、dialysis)と呼ぶ。生体膜など物質を選択的に移動させる能力を持つ場合以外は規模の差はあれ、透析と浸透は同時に進行する。」

1と3には多少の矛盾もあるが、半透膜は「(物質を選択的に移動させる能力を持つ場合以外は)透析と浸透は同時に進行する」、ということがこの際非常に参考になる。甘納豆作りでは水が溶媒で砂糖が溶質であり、双方とも豆の皮を通するのである。しかし、それぞれの分子が通過する速さは拡散係数で決まり、水分子の大きさは砂糖のに比べ10分の1以下であろうから、水が通過する速さは砂糖に比べて10倍以上であろう。したがって、豆の中を甘くするには、豆を煮て軟かくする時よりもはるかに長い時間をかけて砂糖が皮を通りぬけて、種に浸透させなければならないという結論になる。

 

砂糖を加えてから煮る時間が短いと、砂糖と水は親和性が強いから、さめてから豆の中の水が豆の外の砂糖に移行して、中の水分が減少するのであろう。温度が高いときは拡散係数は高いので、外の砂糖分子は中へ移行するチャンスが増え、中の砂糖濃度が高まる、と考えられる。

 

実際、レセピをよく読んでみると、砂糖を入れたのち何回も熱を加えて煮直している。なぜ何回にも分けて煮直しているのかは不明である。一度に続けて長時間煮たのとはどこが違うのか説明がないので、実験してみる以外にないだろう。解明には手間がかかる。さらに、甘納豆作りのときは豆を煮るときに重曹を加えている。重曹がそのような効果をもたらすかにつては二種類の説明があり、一つは黒豆などの色をよくするという説と、豆を柔らかにするという説があるが前者は疑わしい。黒豆は鉄鍋で炊くとよいといわれるが、鉄分が黒豆の色を鮮明にするというのは本当であろう。

 

重曹が豆を柔らかくするというのは、重曹が肉を柔らかくするのと似ている。中国料理店で出してくる肉はどこでも柔らかいが、重曹で肉を柔らかくしているといわれている。サンフランシスコでも香港でもそうだというから、東京でもそうなのだろう。その理由は、重曹がカテプシンという肉のたんぱく質を包んでいる物質を分解して切ってしまうからだと説明されている。植物繊維も重曹が切断するかどうかは記事が見当たらないが、何らかの変化をもたらせるから、その効果があるのだろうと考えている。

 

以上が甘納豆に関する精一杯の科学的考察である。まだ全部が解明できたのではないので歯がゆい。

 

中村省一郎    1-9-2017