ピアノのピタゴラス調律

 

前置き

ピタゴラス調律とはピアノをピタゴラス音律に調律することを言う。ピタゴラス音律はピタゴラスのギリシャ時代からバッハに時代まで使われてきた音律で、バッハ以降でも音楽家によってはこれを好み使ったといわれる。ドレミファの音階は現代最も多く使われているのは12平均律で、バッハの時代に出来、その後は急速に12平均律が標準になった。現代では、よほど特種な場合以外では、世界中のすべてのピアノは12平均律に調律されている。

 

ピタゴラス音律は基本になる音(普通はA4、つまりピアノの鍵盤の中央オクターブのラの音)の音程をまず決めると、その他の音は周波数が1:2、2:3、3:4になる鍵から決めてゆく。ちなみに弦楽器はこの原理で調律する。ピタゴラス音律ではソとドの周波数比は3:2=1.5

 

一方12平均律音律では、1オクタブ中の12半音階を、すべての半音の周波数の比が数学的にログ(log)スケールでlog(2)/12になるように決める。12平均律音律ではソとドの周波数比が1.49827、とわずかだが幅が狭い。しかし、この違いがドとソ(あるいはレとラ、ミとシ)の和音を濁らせる。

 

ピタゴラス音律を用いた楽器で演奏すると、シャープやフラットの少ない曲では、主な和音が非常に調和した美しい音に聞こえる。しかし逆にシャープやフラットの多い曲では響きが悪く汚い音が混ざる。その理由はある黒鍵の白鍵との相性が悪くなるためで、最もひどい鍵を狼鍵と呼ぶ。ピタゴラス音階のもう一つの泣き所は、3度の和音、つまりドとミ、ファとラ、ソとシが5度の和音と比べるとかなり濁った和音になることである。

 

12平均律では、曲をどのように転調しても、周波数比が一定している。しかし、欠点は和音を出すと、2:3、3:4その他の倍音が正確には起こらす、少し濁った和音になることである。普通のピアノでドミソ、ファラド、ソシレの和音を鳴らすと、ピアノがよく調律されていても、わずかに濁った音がするのはこのためである。

 

その他の音律も開発されている。18世紀後半から19世紀半ばにかけて、3度の和音を多く使う音楽が多数作曲されたが、この3度の和音を純粋な和音に聞かせる音律などが開発された。長くなるので、これ以上は触れない。

 

ピタゴラス調律

ピタゴラス調律の長所短所については、中学の音楽の時間に習って初めて知って以来興味はあったが、実際にそんな楽器を弾く機会はもちろんのこと、ピタゴラス調律の鍵盤楽器の演奏を聴く機会さえ来るとは思えなかった。

 

私にはピアノの調律が出来る。アートセンターのピアノは2年前から私が一人で引き受けているし、ごく最近頼まれて、ある音楽レコーデングスタジオのピアノを非常に正確に調律し感謝された。

 

アートセンターのピアノは平素は絵画展示を行う大きなホールの四つ角に置いてあるのだが、太陽が直接あたるので狂うのが早く、1年に4回調律してもし足りない。(ピアノは絶対に直射日光に当ててはならないというのが鉄則であるが、いくら言ってもアートセンターでは置き場所を変えてくれないし、カーテンはつけたくないと主張する。)

 

そんなわけで、間もなくまた調律しないといけないのだが、(内緒だが)少し反抗の意も含めて、今回はピタゴラス調律をしようと思い立ったのである。このピアノを使う次の正式な演奏会は3月1日であるから、その1週間くらい前にもう一度調律し直し、その時に12平均律音階に戻しておけば文句は出ないはずである。もし、いま何もしなければ、アートセンターのほうでは3月1日直前まで調律のことは言い出さないであろうから、調律が狂ったまま時が過ぎることになる。私は週に数回使うので、これは耐えられないことである。

 

ピタゴラス調律がすんだら、幾つかの曲を弾いてみようと思う。また狼鍵を少し変えて、おとなしくするアイデアを試してみる機会でもある。何人かの専門のピアニストにも知り合いがいるので、彼らもこのピアノに興味を示すかもしれない。

 

ピタゴラス調律の結果につては1月中に報告の予定。

 

中村省一郎

2018-12-29