中国との新しい接点

 

一昨日帰宅すると、出版社から小包みが届いていた。開けてみると中国語の同じ本が5冊でてきた。著者名がなんと自分ではないか。こちらの知らぬあいだに、7年前に初版を出し昨年第二版を出した数値解法の教科書が中国語に翻訳されていて、その見本が送られてきたのだった。

 

これまでにも、スペイン語と韓国語の訳本が送られて来たことがあったので、それほどには驚かなかったけれど、すらすらは読めない中国語ながらも眺めているうちに、どういう経路で中国語の翻訳になったかを巻頭文から読み取ることができた。

 

中国の大学間の協力で、科目の系統によって教科書選択を行う委員会があり、翻訳すべき原本を選択しているのである。清華大学、北京大学を筆頭によく知られた10大学の名が連ねられ、これらの大学の工学系の教科書として採用するために翻訳を出版したと説明されている。

 

この本は工学系の学部生を対象に書いたのだが、米国内ではむしろ専門家には売れても、米国内で教科書として採用してくれる大学はすくない。その理由は、よく似た本が何冊も出版されて競争が激しい上、だいたい米国の大学生は基礎的な勉強はきらいなので、数値解法のような地味な科目を勉強したがらないためである。そのためか、学部生が大学院にくることはめったにないし、来ても博士コースを終了出来る学力と気迫のあるものはめったに居ない。米国の大学院の学生の大半は、中国、韓国、インドからの留学生である。かれは自国の大学を卒業すると、きまって米国などの先進国の大学院にくるのである。しかも選り抜きだけを大学院生として受け入れるために、非常に大学院生の質が高い。

 

中国やこれらの国の学部教育の基礎レベルは米国よりも遥かに高く、したがって私の書いた教科書が役に立つのであろう。それにしても、英語で書かれた同類の本は数多くあるのに、私の本が選ばれたのは嬉しいことである。しかし本の値段の猛烈に安いことも驚き(一冊4ドルほど、これでは印税は一冊20セント)。

 

この本の内容は、学生時代に宇治や吉田で習った数学と重なるところがおおい。数学問題の解を電子計算機をもちいて計算し、グラフで表すところに焦点がある。ただ、電子工学や物理などでも使えるように常微分や偏微分式の解法も書いたので、もう少し範囲が広いであろう。書くときいつも頭を離れなかったことは、なぜ宇治や吉田の数学の講義があれほど分かりにくかったかの疑問であった。本の書き方でその疑問の回答をしたつもりである。その成果が中国との新しい接点になったように思える。

 

中村