「野菜作りの知恵」(6月10日改訂)

 

(1)みつば

 

裏庭の植物のほとんどは多年草の花や観賞用の植物であるが、一角だけは野菜を植えてある。野菜を植える理由は、自分で作らないと美味しくないか、全く手に入らないかのいずれかである。

 

米国生活では、みつばも手に入りにくい野菜なのだが、昨年まであまり成功しなかった。日本の種屋で詰めた種を見つけても、一袋に20粒くらいしかはいっておらず、失敗の余地はないので、出芽をさせて大きくするまで、非常に神経が疲れる。それに、うっかりしていると、野兎に食べられてしまい、苦労が水の泡になることが多かった。

 

ところが今年は、米国のある種屋で大量のみつばの種を安く通信販売していることがわかった。5ドル分も注文すると大きな袋にずっしりと言えるくらい送ってくる。どうしてこんなに安く売れるのだろう。

 

そこで、4月初旬に苗床用の平たい容器3個によい土をいれ、そこへ惜しげなく密に種をまいたのである。5月の半ばにもならない今、もう収穫している。柔らかくて生同然で食べられるし、密生させてあるので、毎日摘んでも減らないどころか増えてゆく一方だ。これなら畑もいらないし、日あたりの良くない所でも可能である。出入り口に近いところにおいてあるので、ここまでは兎も来ないのがありがたい。若く新鮮な「みつば」がこれほど旨いとは知らなかった。

 

(2)アスパラガス

 

アスパラガスは多年草の植物で、土の中から出で来る芽を摘んで食べ、竹の子とよく似ている。6―7年前に植えて、3年目位から採れだし、何の手間もかからず、毎年春から夏にかけて収穫できる。実際芽の先が地上に現われると、4―5日で大きくなって葉がでてしまうので、3日目位には摘み取ってしまわなければならない。家で採れるアスパラガスは、甘味があって風味も異なり、市販のとはまったく関係のない野菜のようだ。この植物には雄雌の違いがあり、雌は細く雄が太いという。したがって農家の畑では、雌の株は抜いてしまい、雄だけを残すそうだ。

 

(3)山芋

 

山芋をぜひ植えてみたいと思った。埼玉の住む弟に相談したら、むかごを沢山おくってきた。むかごというのは、豆粒くらいの種芋で、山芋の蔓にできるのである。山芋には花は咲いても種はできない。春になって、むかごを植えたら、芽はすぐにでてきた。蔓はずいぶん長くなるので、支柱にはかなりの苦労がある。秋になって掘ってみたが、山芋は見つからなかった。しかし、むかごは無数にでき、それが地上に落ちた。次の年は、昨年の根からまた出て来たのと、新しいむかごからのが、大小多数の蔓になった。そうして4年がすぎたのだが、山芋ができている手ごたえはあるものの、非常に深くに芋を作るらしい。こちらは粘土質なので50cm以上深く掘ることはできないので、手に負えない。

 

今年の3月頃、NHKのテレビをみていた妻が、茨城県で山芋を浅いところで実らせるために、ビニルの布を埋めて、その上に種芋を埋め、山芋が深いところに根を下ろせないようにしているという。ビデオテープにも取っておいてくれたので、よくわかった。というわけで、今年は、その方式を全面的に信用して試みている。しかし山芋が食べられるときは来るのだろうか。

(4)タラの木

 

タラの木の種はいとも簡単に手に入れることが出来たが、そのあとが良くなかった。どうしても発芽しない。古い種を買わされたのかもしれないが、そうばかりとも言い切れない場合がある。種類によっては、出芽条件が整うまで絶対に芽を出さないものがあるからだ。

 

しかたなく、植木やをまわって、カタログを調べてもらったら、大抵は絵が出ていたが、店員は初めてみたといった。問屋に聞いてから電話するからと約束してくれたが、その後一軒も電話などしてこなかった。

 

そこでinternetで、苗を売っているところがないか、丹念にしらべたら、たった一軒、意外も意外オハイオ州の西南端、車で二時間位のところにある苗屋であった。週末、約束の時間についてみると、80才のおばあさんの経営する小さな苗屋で、その娘が実際の世話をしていた。タラの木は刺が痛いから大嫌いだという。それでも長さ2mにもなる木をビニルでくるみ、手際よく私の車におさめてくれた。普通の乗用車であるが、後ろの座席が前に倒れるので、トランクから全面の窓までけっこう長いものが納まる。

 

帰り際に、なぜお宅にはこの木があるのかと質問した。近くの工場が取り壊しになったとき、植わっていた植物も取り払うというので、引き取ったのが始まりという。めったに買う人はいないが、メールのオーダーは時たまあるという。

 

米国ではまだまだ珍しい植物であるが、農学部のinternetには乾ばつに強い植物としてよく紹介されている。またカロライナかどこかの大学の校庭にある大きなタラの木の写真ものっていた。タラの木は冬の寒い地方で栽培できる唯一の南国風の樹木であるという。

 

そういうわけで、わが庭にもタラの木が一本加わった。

 

(5)トマト

 

トマトは柔らかく、少々酸味があって、作れば必ず成功する野菜と思っていたが、その認識は十年ほど前から変わってしまった。市販のトマトは皮も実もかたく、業者の運搬には便利なのだろうが味がない。ところが、自分で植えたトマトですら、以前と全く同じ名前の苗を買って来ても、採れたトマトは市販のとよく似た味になり、昔のトマトは作れなくなってしまったかのようであった。トマトもバイオテクノロジーのあおりで、農家にとって扱いやすく、運搬しやすいものに変えられてしまったに違いない。テクノロジーで味の良くなった例はあるのだろうか。

 

そんなあるとき、道路わきで売っているトマトを買ったところ、昔ながらの柔らかく、なつかしい味のトマトに巡り合えた。以来、その種を絶やさないようにしている。だから、トマトは止めるわけにいかない。

 

(6)やっかい者のウッドチャック

 

菜園の野菜や花壇の植物が夜中に根こそぎ食べられることが起こる。犯人は兎かウッドチャックである。どういう訳か昨年あたりから兎の数が極端に減ったのはありがたい。

 

裏側に隣接している家のプール脇に小さな着替え小屋があり、その床下がウッドチャックの格好の巣になっている。そここから我が家の畑まで数メートル、金網の垣根の下を潜ってやってくる。そこで今年は、垣根の根元にレンガをならべてすき間をなくし、ウッドチャックが通れないようにしたのに、その数日後に大被害をうけた。妻の証言によると、二匹でじゃれながら庭をあるいていたという。しまった。彼らがこちらの庭に居る間に垣根の穴をふさいだのに違いない。

 

残る方法はただ一つ、罠をかけて捕らえることである。法律違反なのだが、そんなことはいっていられない。罠は針金細工の篭で、餌をしかけておき、動物が入ると入口がしまる。林檎をいれておいたら、一晩で一匹つかまった。篭ごと車にのせ、10kmくらい遠くにつれて行き、放してやった。自由になった動物は一目散には逃げないところが面白い。知らない場所だからだろう。右左を見わたし、少し走っては、また止まって見渡し、やがて林のなかに消えた。二個めの林檎を仕掛けてあるが、もう一匹はまだ捕まらない。

 

中村省一郎  (2002年5月)

 

(後書き)

その後2週間もたたない間に、さらにウッドチャックのおとなが2匹、子供が3匹(2匹は一度に捕まった)を捨てに行った。ウッドチャック以外にも、ラクーン(たぬき)のおとなが2度、子供が2度入った。ラクーンは植物を荒らさないので、すぐに逃がしてやるのだが、篭のなかでひどく怒っているのでおそろしい。

 

幼いラクーンは憐れであった。雨の日、篭のなかでもがいたせいか、泥まみれになって寒さに震えていたので、逃がすまえに水道の近くへ運びホースで水を強くかけてやった。泥が落ちると、意外と毛には油があるのか、水をはじいてふさふさになり、震えがとまった。蓋を開けたら、逃げ出した幼いラクーンは、すぐ近くの木に昇ぼろうと試みたが、太すぎたためか、あきらめて庭を横切っていった。

 

もう一度は、近くのアパートにすんでいる息子が、夜遅く立ち寄ったときのことである。庭の端から幼い小犬のような鳴き声が聞こえてきたので行ってみると、小さなラクーンが篭のなかにとじこめられていた。隣家との境の金網の柵の向こうからは、親のうなる声が聞こえて来たという。それでも恐れず逃がしてやったのはよかったが、親に襲われなかったのは幸いであった。(6月10日)