もう一つのガッターマンの会

                   西 村 三千男   (2002.2.7)

 

昨年11月、奈良で、皆で楽しんだ「アイソマーズ総会」は「ガッターマン45周年」と副題されていた。実は、昨年6月6日にローカルに(内本、森川、西村で)もう一つの「ガッターマンの会」があったという話題である。

その話題は今から約5年くらい前、1997年初夏に迄さかのぼる。私は業界の某機関誌から巻頭言の執筆依頼を受けていた。そこで話題に採り上げたのが、私の数少ない自慢話の一つである「眼の養生訓」であった。それにくだんの「ガッターマン」で彩りを添えようと考えた。「ガッターマン」はその本論には関係が薄いけれど、少しばかり格好をつけようと企んだのである。

活字になるからにはしっかりと原典を確認しようと学生時代に使った海賊版を探したけれど、何度目かの引っ越しで処分してしまったらしく自宅の書棚には見当たらない。確か1970年頃に邦訳されたなと思い出して、丸善に照会したら邦訳は絶版になっていた。原書のコンピュータ検索をしてもらったら1982年に改訂されたのが最新版で、その輸入実績は過去10年間で1冊とのことであった。それはそれで発注しておいて、アイソマーズの京大教授・内本さんに京大工化の図書室に蔵書されていませんかと問い合わせたら、図書室そのものがとっくの昔に消滅していた。内本さんから学生時代の本が手許にあるから貸してもいいよと援助のお申し出があって借りた。何かの経緯でこのことを森川さんに話したら、森川さんはミュンヘン留学中に新版(海賊版でないことは勿論である)を買っていてそれも貸して頂けることになった。

 遙か昔のことについての私の記憶が正しいかどうかを確認するのに先ず内本さんから借りた本を参照した。私の記憶は正確であったが、一方その本で発見した内本さんの几帳面で見事な書込みに感嘆した。私などは洋書に書込みするのは、知らない単語を辞書で引いて訳語を覚書きするだけである。これに対して内本さんの書込みは単語の訳語だけではなくて、要点のマトメとか講師のコメントまでもが記入されているではないか。俊才と劣等生の歴然たる差違をみて忸怩たる思いがした。森川さんの新版は内容の改訂は小幅であったが、版が大きくて読みやすく立派だった(我々の海賊版は写真製版で版が小さく、紙質も悪く当時書込みに苦心した)。なお、後日(用済み後)丸善から到着した新版(43版、我々の教科書は34版)は編集や構成まで大幅改定されて分厚く増ページされていて、まるで別の本のようであった。

 かけがえのない資料をお借りした両氏に「ガッターマンの夕べ」でお礼をしようと、内本さんが上京されるタイミングに合わせて計画したら、それが拡大して「アイソマーズ東京支部の夕食会」に乗っ取られてしまった。また次の機会にと思っているうちに年月が経って、約束はやや不渡り状態で忘れかけていた。それが昨年関西支部から澎湃として出てきた「ガッターマン45周年」の呼びかけに背中を押されるようにして5年振りに昨年6月6日に実現したのである。当時、内本さんは東京駐在中であった。その場所は六本木/神谷町のベンツビル地階にあるドイツレストランで、実は本日2月7日東京支部が夕食会を開催する「Zum Einhorn」である。

 

なお、上記の巻頭言がフロッピーディスクにデジタルで残っていました。当時の原文のままを加筆訂正も編集もしないで恥ずかしながら下に掲載します。

ご笑覧下さい。

 

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                        1997年6月記

 巻頭随想  「眼の養生訓二題」

                        西 村 三千男

 

 学生時代から周囲に化学実験の事故で眼を負傷された先生方を時々お見かけしました。自分は化学屋として人生を送るに当たり、視力がイノチ、極言すると手足よりも眼の方が大切だと考えたものです。

 この八月で満六十二歳になりますが、結果として眼はすこぶる健康でいわゆる老眼鏡も含めてメガネは全く不要です。そこでご参考までに私の実践している眼の養生訓をご披露します。

 

その一.

  今から約二十数年前のこと、私は取引先で黒崎博さんという還暦を過ぎても老眼鏡を必要としない常務さんに出会いました。その先輩にどの様に眼の健康管理をされているのか質問しました。「眼の冷水摩擦ですよ!!」「冷水摩擦??」「要するに眼の周囲の筋肉を冷水で刺激して鍛錬するのです」「やり方は??」「シャワーがあればベストですが、洗面台で水を手で掬ってバシャバシャやれば十分です」「日に何度くらい??」「日に3度、1度にバシャバシャを20回くらいやっています」

  こんな簡単なことでメガネ不要の人生になるのならお安いご用だと即日実行して今日に到ります。そしてその効果であるのかどうか不明ですが、今でもメガネ無しで時刻表もコンサイス辞書も読めます。 Gott sei Dank!!

 

その二.

 今から約四十年前のこと、大学三回生の時の有機化学演習は L.Gattermann の名著とされる Die Praxis des Organischen Chemikers の原書講読でした。

 これは彼のHeidelberg大学での講義をまとめたもので、化学大辞典にも記載されている教科書の定番で初版は既に19世紀に出版されており私たちが使ったのは34版でした。このドイツ語を気鋭の助教授陣(小方芳郎、野崎一、清水祥一などの諸先生)が速いスピードで、ご自身の体験も加味しながら講読ご指導されるので、当時は「ドイツ語で搾られている」というのが実感でした。

 この本はすこぶる実践的な記述が特徴ですが、実験室の安全についても行き届いた説明が載っていて今でも部分的に鮮明に記憶しています。例えば、真空デシケーターを真空に引く際にもし破損すると、「真空から予想される現象とは反して加圧の場合と同様に破片が飛散するので保護メガネが不可欠である」等です。

 大学を卒業して今の勤務先に就職してから、私は実験室で自ら保護メガネ着用を励行したことは勿論ですが、工場でも研究所でもその時々の部下に保護メガネを奨励するのに何時もL.Gattermannを引用してきました。

 この原稿を草するに当たり、念のためその記述を確認しました。自分の本は何度かの引っ越しで紛失していましたので、夙に秀才同級生でもあった畏友/京大教授の内本喜一郎さんから懐かしい本を拝借致しました。そこには先生の学生時代の几帳面な書き込みがありました。

                                                      以上