我が追憶のハイデルベルク、そしてドイツ

 

第3話  シュパーゲルツァイト

 

「シュパーゲルツァイト」をご存知なら貴方はかなりのドイツ通です。かって留

学か駐在でドイツに通年住んだ経験のある人は当然ご存知ですが、そうではないの

にこれをご存知だとすればの話です。「シュパーゲルツァイト」を独和辞典で引く

と単純に「アスパラガスの旬」と出ています。ではインターネットでキーワード検

索すればどうか。「シュパーゲル」とカタカナ入力してweb検索すると、あちこ

ちから大量の情報が溢れ出ます。単なる「アスパラガスの旬」の意味を超える食文

化(史)的な背景があるからです。ここで云うシュパーゲルはいわゆるホワイトア

スパラガスです。日本に昔からあるあの缶詰の細い白アスパラガスとは異なって、

白くて太い姿でシノベタケノコとウドの中間のような風情の生鮮野菜です。その旬

になるとドイツ人同士で「もうシュパーゲルは食べたか?」と挨拶するような位置

付けで、「松茸」とか「江戸っ子の初鰹」にも相当するのだそうです。

この連載に後ほど項を改めて登場するL氏とハイデルベルクのT社にデンカクロ

ロプレンの売り込み攻勢をかけていた頃のこと、「シュパーゲルツァイト」になる

とハイデルベルク近郊の或る地区(地名は忘れてしまいました)で「アスパラガス

の朝市」がたっていました。2ポンド単位ずつ(ドイツでは食品は習慣的にポンド

取引、ドイツ語ではフントと言い1フントは正味500グラム)束ねたのを積み上

げています。ドイツ人はこれを5ヶ、7ヶとまとめ買いします。同道していたL氏

もそうでした。

「シュパーゲルツァイト」は4月中旬から6月下旬の聖ヨハネの日までと決めら

れています。この時期にはレストランやビアホールでシュパーゲルの特別メニュー

が提供されます。特別メニューといってもシンプルです。太いシュパーゲルを茹で

たもの1人前約1ポンドに独特のソースと塩ジャガイモ、場合によりハム類を添え

ただけです。シュパーゲルは先端の成長点には種々の人体に有益な生理活性物質を

含有しながら、本来的にローカロリーという有難い食材です。なのに、折角のロー

カロリー食材にホーランダーソースとかバターソースをたっぷりと(一度にバター

1人前50グラム以上も)かけて更に塩ジャガイモとハムまで添えてハイカロリー

にしてしまうのがドイツ流です。

本稿ではハイデルベルクから「シュパーゲルの朝市」を連想したのですが、この

時期その他の各地でも朝市や道路脇の直販が見られます。シュパーゲルの産地はフ

ランスやベルギーも有名で、中央ヨーロッパに広く分布しているようです。国産に

拘ったり、産地に拘ったりすることもあって、そこは日本の「筍」や「松茸」に似

ているかも知れません。圏内南北の気候差や輸出入を考えると生鮮シュパーゲルは

時期を選ばず入手出来そうですが、それを敢えて4月中旬から6月下旬に頑なに限

定するところもドイツ風です。

産地限定、季節限定の「コダワリの一品」ですから、皆さんがこの時期にドイツ

旅行されて旅先のレストランでこれに出逢ったら是非とも賞味されるようお奨めし

ます。私の経験では付け合わせは塩ジャガイモだけで充分ボリュームがあり、ハム

類は注文しないでよいと思います。それよりも何よりも、適度に冷えたドイツ白ワ

インかドイツビールは絶対に欠かせません。

                            (第3話おわり)

                          2002.5.15記