河島英五コンサート

武山文子

 

〈心にしみるほほえみと、真すぐな気持なくさない。風の人になりたい〉

と歌った河島英五は、長髪をなびかせギターを抱えて、風の人になってしまった。四十八歳だった。風貌も声も骨太だが、男のやるせなさがにじんだ優しい目が忘れられない。

十五、六年前、滋賀県大津生協の組合員だった時、文化活動の一つとしてコンサートを企画した。生協に相応しい歌手として河島英五が選ばれた。職員、組合員が共に、キップ売りや宣伝活動をした。私も等身大のポスターやチラシ作りに頑張った。

当日、大津市民会館の大ホールは聴衆でほぼ満員となった。私はライトを浴びて、開会の挨拶をするため舞台に立っていた。おそらく最初で最後の大役だろう。うまくやらねばと思えば思うほど、胸が早鐘を打ち、足も宙に浮いた感じであった。

〈今日はお忙しい中、河島英五コンサートにようこそいらっしゃいました。生活まるごと歌にする河島英五さんと生活まるごと支え合う大津生協との出会いは、とても意味のあることだと思います〉

何とか挨拶を終えて、舞台の袖でコンサートの進行を見守った。『ノウダラの女』『水甕の唄』『風の人、火の人、山の人』と、しわがれた声がホールを流れて行く。大阪の町工場で育ち、庶民的な感覚で人生を見みつめ、感じたことを分かりやすい詩と曲にした。歌の合間には、両親や子供達のことなどの語りが入り、親しみが感じられた。

私の好きな『酒と泪と男と女』がギターの伴奏で、静かに流れ出した。哀愁を帯びたいい曲だった。

〈忘れてしまいたいことや、どうしようもない淋しさに包まれた時、男は酒を飲むのでしょう。飲んで飲んで、飲み疲れてねむるまで、やがて男は静かにねむるのでしょう〉

〈忘れてしまいたいことや、どうしようもない悲しさに包まれた時、女は泪をみせるのでしょう。泣いて泣いてひとり泣いて、泣いて泣き疲れてねむるまで泣いて、やがて女は静かにねむるのでしょう〉

この頃では、酒も、泪も男女平等になって、男も泣いてねむり、女も飲んでねむるようである。しみじみ心にしみるこの歌は、何かの時に口ずさむが、私にはとても難しい。それにやはり、この歌はギター伴奏で男が歌うのがよい。

『時代おくれ』『友よ語ろう』と続き、

〈いいか男は大きな夢を持て、野風増野風増(のふうぞうのふうぞう)、男は夢を持て〉

と息子への希望を託し、

〈おまえが二十になったら、酒場で二人で飲みたいものだ〉

と父親の夢を語る。

『野風増』が始まると、聴衆は手拍子を打ち立ち上がっていた。時々、舞台の河島英五さんと袖にいる私たちの目が合って、盛り上がりを共有した。大きな感動に包まれて、 コンサートは終わった。

テレビで河島英五追悼のファミリーコンサートを観た。遺志を継ぐミュージシャンである三人の子供たちによって、表現方法は変わっても、英五の心は伝えられて行くだろう。

昨年のNHK紅白歌合戦のスクリーンに大写しになった姿を思い浮かべながら、『酒と泪と男と女』を口ずさもう。

忘れてしまいたくない歌手の一人である。天国で思う存分お酒を飲んで、泣いてねむって下さい。