トルコ随想(3)

-多様な風景・美味しい食事-

武山高之

モスクのドームとミナレットがある村落風景

新幹線で近江平野を走っていると、鎮守の森とお寺の甍を囲む集落が見られます。フランスやイギリスの田舎を旅すると、教会の尖塔を囲む集落が見られます。

 

中央アナトリア高原の田舎では、集落の中心には必ずモスクがありました。その中に、規格品のような真新しいプラネタリウムとロケットの発射台の組合せを思わせる、ドームとミナレット(尖塔)がいくつか見られました。

 

あれは、モスクのプレハブ・セットではないかと思いましたが、如何でしょうか。東京の稲荷町ではお稲荷さんのプレハブを売っているそうですが。

 

ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩石群

カッパドキアの岩石群、ギョレメ野外博物館、地下都市、パムッカレ石灰棚など自然の作った不思議な風景とそれに人の手が加えられた珍しい構築物を多く見ました。

 

とくに、熱気球から見たカッパドキアのキノコのような岩石群は圧巻でした。何故あのような物が出来たのでしょうか。ガイドの説明は、日本語への翻訳が難しく、判り難い点がありました。ちょっと解説したいと思います。

 

太古の昔、火山活動で火山灰と溶岩が混ざったものが堆積しました。その火山灰は次第に固まって、小さな孔を多数持つ多孔質の凝灰岩になりました。長い年月風雨に曝され、硬い溶岩とその下にある凝灰岩の層は残り、柔らかい火山灰だけの層が侵食され奇妙な風景が残されました。キノコの頭は溶岩の残ったもので、柱は火山灰の残った物でしょう。それにしても、様々な形がありました。

 

火山灰が固まった部分は、加工し易く教会、住居、地下都市に掘られたのでしょう。また、多孔質の凝灰岩は活性炭のような構造のため、地下都市で炊事をした時、発生した煙りも吸収したのでしょう。凝灰岩で作った土産物も売っていました。

 

この辺りの断層には、五色の土の層が見られました。その土がピンクがかったオレンジ色の瓦やクリーム色の壁に使われ、落着いた家並みを作っていました。

 

パムッカレの石灰棚も珍しい風景ですが、中国の奥地にもあるのをテレビで見たことがあります。小規模ながら秋芳洞の中にも似たような棚がありました。長い年月の間に石灰岩が水に溶けて出来たものです。

 

北海道と瀬戸内海が隣接したような農村地帯

カッパドキア、コンヤからタウルス山脈を越えるまでのアナトリア高原の広大な農業地帯では、カボチャ、ジャガイモ、タマネギ、トウモロコシ、リンゴの収穫期でした。小麦の収穫はすでに終わっており、刈り取った後が見られました。ポプラ並木も続き、日本の北海道に似た気候です。

 

タウルス山脈を越え、地中海のアンタルアに降りると、そこはミカン、オレンジ、レモン、ブドウの果樹園が続く、瀬戸内海のような気候でした。

 

エーゲ海に移るとオリーブと綿畑が続きました。トルコは少し移動しただけで、多様な顔を見せる農業国でもありました。

 

それにしても、セルジューク・トルコは夏の都コンヤと地中海岸にある冬の都アランヤの間を厳しい山道を越え、毎年往復したのでしょうか。

 

ギリシャの自然哲学

エフェソスの少し南、ミレトスはギリシャ自然哲学の発祥の地です。エフェソスにも何かギリシャの直接民主主義・自然哲学に関する遺跡はないかと探しましたが、見付かりませんでした。ギリシャ時代のなごりは、円形劇場とコリント式、イオニア式の柱様式だけでした。

 

ただ、エディの説明では古代の人は1日2時間しか働かなかったそうです。暇を持て余した人たちが一日中議論していて、哲学が生まれたのでしょう。

 

帰国後調べてみると、和辻哲郎は名著『風土』の中で、〈イタリアでは、恵まれた風土のため農業労働が楽で、人々は無駄話に時を過ごし、長閑な生活に浸っている 〉と書いてありました。ギリシャ・エーゲ海も同じでしょう。さらに、ギリシャでは、明るく陰のない風土が明晰な哲学的思考を生んだとも書いてありました。

 

チャイを飲んで無駄話に時を過ごしているのは、今のトルコでも同じです。しかし、新しい哲学は生まれそうにありません。

 

トルコ料理を楽しむ

トルコ料理は、ひつじ・チキン・さかなが中心でした。いずれも人により好き嫌いがある対象ですが、私はいずれも好物で楽しい食事でした。とくに、ひつじの料理は美味いと感じました。

 

突き合わせに出て来る野菜類の料理が豊富でした。とくに、焼きナスをすりつぶし、味付けした料理が美味しいと思いました。ピクルス、オリーブ、豆類も豊富でした。サラダはサイコロ切りにするのがトルコ流でした。味はいいが、食べ難く感じました。

 

突き合わせに出て来るライスは、中東や地中海に共通のピラフでしたが、ピーマンやムール貝に盛られたもの、葡萄の葉に包まれたものでした。さかなは旬のブルーフィッシュというアジとスズキの中間のような味のものでしたが、日本の方が料理法が多様性があり、上だと思います。

 

ヨーグルト・ドリンクのアイラン、葡萄を原料とした独特の風味の蒸留酒、ラクも味わいました。

 

イスタンブール新市街の横丁で、クレープ屋さんを見つけました。ひつじの肉・ほーれんそう・チーズを挟んだギョルセミというものでしたが、庶民的な味で、楽しめました。アイスクリームは引っ張ると餅のように伸び、パンと音を出して切れ、縮む粘性と弾性を兼ね備えた独特のものでした。

 

焼きクリはイタリアなどと同じで、素朴な見栄えのしない物でしたが、味は上等でした。ガラタ橋のサバ・サンドは食べ損ないました。

 

トルコの酒・ラク

独特の風味がある強い蒸留酒・ラクを飲みました。調べてみると、ブドウとアニスを原料とすることが判りました。アメリカで流体力学の教授をしており、料理が趣味の友人に尋ねてみると、次の返事が返ってきました。

 

「ラクはリッカーと同じ語源に違いない。水で割ると濁るのは、フランスのアブサンがあります。アルコールに砂糖や香料を加えたリキュールの一種でしょう。アニスはセリ科の香料。イタリア菓子やソーセージに使われ、甘い香があります」