四万十と<ゆーず>

武山文子

  平成八年八月八日、姉はクモ膜下出血で突然倒れ、四日後帰らぬ人となった。故郷土佐での法事のため、夏の終わりに、夫と車で帰省した。

  帰路、高知港からフェリーで海を渡ろうとしていたときのことだった。乗船のために車の列に並んでいて、助手席の夫がふと横を横を見ると、《無手無冠》と大きく書いた酒屋さんの車があった。

「《火振り酒》ボク飲んでるよ」

と声をかけた。

運転していたのは、私の高校の同級生K君であった。早速、船のサロンで、ビールを飲む約束をした。K君は連れの青年と共に、地酒の宣伝に行くことろであった。四人で歓談していると、酒屋の主人が発案した《四万十川ミステリアス・リザーブ》という企画の話になった。

栗焼酎を四万十川のほとりの岩穴で大甕に入れて、四万十時間(約四年半)熟成させ、時間が満ると、甕ごと郵送される企画なのである。値段も四万十円也。

四万十川の清流を思い、ロマンをかきたてられた。これも何かの御縁。姉の亡くなった年の思い出にと、その話に乗った。

 

時は流れ四年半のうちに、夫は定年になり、住所も変わった。そこに、陶製の大甕に入った《火振り酒》が運ばれて来た。

口はコルク栓、黒竹で作ったお洒落な柄杓も付いている。1斗入りであろうか。

玄関にどかっと座って、インテリアの一部にもなった。白い文字で《四万十川ミステリアス・リザーブ平成八年No.0047火振り酒》とある。事のはずみでネーミングした相合傘に《ター坊〔夫の愛称〕、ふみこ》の文字も書いてある。コルク栓を抜くと、玄関から部屋へと芳醇な酒の香りが漂ってくる。これでは盗み酒するとすぐばれてしまう。

隣人を招いて四万十パーティである。

同郷のHさん夫妻とは故郷の話を肴に

「四万十川の鮎があったらいいね」

と言いながら、栗の香りがして、コクのあるいい味を楽しんだ。里芋や手羽先の煮付けともよく合い、度を過ごされ、帰り際にやや千鳥足になった御主人を見送った。

  次にやってきたのはパイロットと元スチュワーデスご夫妻。夏の盛り、安田の叔母さんの紹介で、馬路村産直商品《ゆーず》という柚子入り清涼飲料の濃縮したものを入手した。パイロットご夫妻は大いに気に入って、暑気払いに氷を入れて飲んでいたが、

「これをイモ焼酎とブレンドすると美味しいですよ」

と教えてくれた。それならば、栗焼酎がもっと美味しいかもねと、タメシテガッテン。これは高知県の西と東の産物《四万十火振り酒》と《ゆーず》のすばらしい出会いであった。《ミステリアス・リザーブ》神秘の取って置き、まろやかな地酒は友が友を呼んでいる。

近く酒豪で知られる友人を招く予定だが、甕を空っぽにされたらと少し心配である。

彼女は

「もう昔のパワーはないからね」

とは言っているのだが……。

  先日、ヨーロッパ帰りの友人宅に招かれたとき、カプリ島産の《レモンチェロ》という美酒を味わった。レモンとブランデーをブレンドしたものであった。日本でもイタリアでも、蒸留酒の香りと柑橘類の香りは相性がよさそうである。

  K君、この商品を《柚子チュー》として売り出したらいかがでしょうか。